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東京地方裁判所 昭和33年(ワ)1681号 判決 1959年3月31日

原告 株式会社 松屋

右代表者 柴田常蔵

右代理人弁護士 中嶋重徳

被告 鈴木政雄

被告 森井利助

右両名代理人弁護士 高橋諦

主文

被告等は原告に対し各自金八万円及びこれに対する昭和三三年三月一五日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分しその一を被告等の負担としその余を原告の負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

成立に争のない甲第一号証、原告代表者本人尋問の結果と同人の陳述により成立を認め得る甲第三号証に証人武政亀次の証言を綜合すると、原告が土地建物の取引の仲介を業とする株式会社であること、原告代表者は訴外武政亀次の紹介で被告森井の息子から本件宅地の売却方仲介を依頼され昭和三〇年六月頃被告森井方に赴いたところ同人より本件土地二四〇坪を売却して手取四〇〇万円欲しいとてこれが売買の仲介をたのまれたが同被告の紹介者である訴外武政が原告と懇意の間柄なので、いわゆる依頼書なる書面をとらないでこれを引受けたこと、一方被告鈴木は昭和三二年一月中旬頃、原告代表者に対して住宅向三〇〇坪前後の土地の買受方仲介を依頼したので右代表者自身ラビツト車に同被告を乗せ本件宅地外二箇所を案内したこと、その後原告を除外し被告等間で本件土地につき代金三八〇万円を以て売買契約が締結せられた事実を認めることができる。右認定に反する被告鈴木同森井本人尋問の結果、及び証人森井キク、同森井好一の各証言及び乙第一号証の記載内容はたやすく信用することができないし他に前記認定を覆すに足る証拠はない。

そもそも一般に宅地建物の取引を欲する者が業者に斡旋仲介を依頼する所以のものは自分の欲する取引の相手方を探索する労が省かれ業者に依頼している多数の顧客中より容易に自分の取引条件に合致した相手方を選択しうる便があるために他ならない。従つて依頼者が業者から自己の求める物件の案内を受け取引成立の機縁を作らしめた以上は爾余の交渉段階において業者の介入を排除して直接交渉を始め取引を成立せしめた場合にも契約成立という結果がもたらされている限り仲介料を支払う義務がある。このことは民法第一三〇条の法理からも肯定されよう。

被告両名が原告に対し、仲介料支払の債務を負う以上たとえ被告両名が相通謀して右仲介料を支払わないとしても被告等の右行為によつて原告の仲介料債権は何等の損害をも蒙らないから債権侵害を理由とする原告の第一次請求は失当である。

よつて予備的請求について検討する。

前記認定の如く、原告は土地建物の取引の仲介を業とする株式会社であり被告森井は本件宅地の売却を原告に依頼し、被告鈴木は本件宅地を原告の紹介で知つたものであり、右被告両名の間に本件宅地について売買契約が締結せられた以上、右売買契約は原告の仲介により成立したものと認められるから、被告等は原告に対し仲介料を支払うべきである。而して右仲介料の額について原告は土地建物取引業法第一七条第一項の規定に基く報酬額指定(昭和二八年一〇月一日東京都告示第九九八号)に定める割合により被告各自金一八万円(但し、売買代金を四〇〇万円と前提して)を支払えと主張するのであるが、右告示は宅地建物取引業者の受けることのできる最高限度額を定めたものであり同告示は又、如何なる名目によつてもそれ以上の金員を受領してはならない旨を定めているに外ならない。しかして宅地建物取引業者が売買委託を受けた場合には、当該物件の確認、売買の相手方の誘引、条件の決定、契約書の作成代金の授受及び所有権移転登記手続等売買完結までに一連の事務を処理するのが通例であるが、本件の如き場合には単に原告は前記の行為をなしたに止まり右一連の手続を為す必要は無かつたのであること、売買代金は前記のように三八〇万円であること、その他弁論の全趣旨に顕れた諸般の事情を考慮すると、被告等が原告に対し支払うべき仲介料は各自金八万円を以て相当と認める。

以上の理由により原告の本訴請求のうち被告等に対し各自金八万円及びこれに対する本訴状が被告等に送達せられた日の翌日であること記録上明らかである昭和三三年三月一五日以降完済に至るまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金を支払うことを求める部分は正当であるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九三条、第九二条本文を、仮執行の宣言について同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 柳川真佐夫)

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